この度、富山県近代美術館が館外展示事業の一環で美術展活動を行なう展示施設「県民公園太閤山ランド」
内の「ふるさとギャラリー」において、個展開催の依頼を頂きました。
 還暦を迎え、自身の画業を振り返る展覧会を想い描いて居りましたところ、故郷の美術館からの
思いがけない贈り物に歓喜致しております。
 お話しを頂き、資料作成や撮影のために昔の作品の数々を引っ張り出していると幼年期からの想い出が
次々と脳裡を巡り始めました。
 ただただ、絵を描くことと映画が好きな少年で幼稚園をエスケイプしては映画館に入り浸り。
富山から福井へと居を移す小学校半ばまでに、どれだけの映画を観たことか…。
その中の一本「だんまり又平・飛竜無双」という話しの中で土佐派の町絵師又平が、狩野派のお城絵師と
「竜」を描き競う御前試合に挑む。
百畳程の大画面に渾身の竜が描かれ、最後に目を入れる場面に感動した私は映画の主人公を模し、チラシや
映画のビラの裏など白い紙さえあれば、竜ばかり描いていました。
 移転した横浜の中学校の図書室で横山大観の画集にあった「生々流転」。水の輪廻を描いた絵巻の一部が、
子供の頃遊んだ大岩不動尊の裏手に流れる「仙厳渓」を彷彿とさせ、障子紙に墨汁で模写したものです。
 初の中央での公募展出品は「独立美術展」。25歳のときでした。糧を得るための看板業と平行しつつ画家を志し、展覧会への出品
を重ね、入選、落選の繰り返し…。美術教育も受けて居らず、バックボーンのない暗中模索の路を歩み始めました。
 ただ小器用なだけの、実感の無い作品に自暴自棄し、絵を描くことを断念しようと思い始めたときのこと、友人が一冊の画集を手に
驚喜しながら(嬉々として)やって来ました。
「井上三綱画集」。生涯の教科書となる、友からの贈り物でした。同じ友の計らいで井上先生との邂逅が叶い、小田原のアトリエ通い
が始まります。
 先生との出会いは、荒涼とした乾いた砂漠を、さ迷い歩く旅人が滾々と湧き出る泉に遭遇した思いでした。
 アトリエで作品の整理や修復のお手伝い、家内と共に先生の想い出の地への旅行。母屋でのひと時、偶然にも先生の幼年の頃に、
村芝居で「だんまり又平」を観て感動したとの話から、西洋と東洋のリアリティーの違いを語り合った夕べ…。
82歳(1981年)で逝かれる迄の6年間は、私にとって至福の時でした。

 師、三綱が黄泉へと旅立ってから、指針を無くし悶々とした日が続いておりましたが、兄の住持する福井の寺での
不思議な出来事が起因となって、私のライフワーク「音」シリーズの制作が始まり、現在に至っています。

 此の展覧会は、私自身を水に準え… 一人の絵描きの「生々流転」の姿です。

 6月21日から8月31日までの会期です。
お近くにお出での折りにぜひご高覧賜りますようご案内申し上げます。

松原 賢 拝